手外科
手外科
「手外科」とは整形外科の中でも上肢の疾患を対象とし、その機能を再建する外科です。手は第2の脳と言われていますが、人類が進化したのは、二足歩行となり自由に使える前足を手に入れたお陰です。それ故、上肢・手の障害は私たちの日常生活に大きな影響を及ぼします。
手に関するトラブルで普段何気ない動作に支障が出ていたり、疼痛を我慢して生活されている方、軽い症状でも大丈夫です。お気軽にご相談ください。
など
指を曲げる働きをする屈筋腱の障害です。
屈筋腱は腱の表面を滑膜というすべすべした薄い組織で覆われており、この作用で腱は腱鞘というトンネルの中をスムースに滑走しています。指の使い過ぎなどが原因で滑膜に炎症が生じると、腱が腫れて腱鞘の中を滑走しにくくなることで、指のこわばりが起きます。指の使い過ぎ以外の原因として、関節リウマチや更年期障害によっても同様の症状を引き起こします。
腱鞘炎が慢性化し、屈筋腱自体が固く肥厚すると、肥厚した部分が腱鞘というトンネルを通過しにくくなり、ばね現象やcatching現象(指が曲がって引っ掛かったまま伸びなくなる)が起こります。
すべての指に起きる可能性はありますが、母指・中指・環指の順に多くみられます。
ドケルバン腱鞘炎は手関節の母指側に痛みを感じます。
この場所には腱鞘があり、その中には母指を伸ばしたり広げたりするための2つの腱(短母指伸筋腱、長母指外転筋腱)が存在します。
マッサージの仕事やパソコン作業をする人など母指の使い過ぎが原因で起きることが最も多いですが、更年期・妊娠中・授乳中などのように女性ホルモンの変動が原因で発症するケースも多くみられます。
ガングリオンは、指の付け根、手首の甲側(手関節背側)や肘の内側などにできる腫瘤です。関節をくるむ関節包という組織や腱鞘の一部が袋状になり、その中に滑液が溜まったもので、腫瘍ではありません。大きさは米粒大からピンポン玉大で、軟らかいものや硬いものがあります。
通常、痛みを伴うことはありませんが、手の甲に出来ると手をついたときに痛みを生じる場合があります。また、肘の内側にできると神経の麻痺をきたすこともあります。皮膚の上からは触れにくい小さいものや深いところにできるものもあります。
ガングリオンと診断がついていれば、放置しても心配ありません。自然に消えることもありますが、強い痛みや神経障害などの症状がある場合には手術になることがあります。
また、手術以外に注射器で内容物を吸引したり、外から押しつぶす方法もあります。
手根管症候群は、手のひらから母指・示指・中指・時に環指までの痺れを生じる疾患です。指の感覚を担う正中神経が、手首にある手根管内で圧迫されると、手根管症候群を発生します。
手根管というのは靭帯と手根骨で作られるトンネル状の構造をしており、その中に正中神経と指を曲げる屈筋腱が9本通っています。狭い手根管というスペースに屈筋腱と正中神経が存在しているため、屈筋腱が腫れても手根管症候群になります。
主な原因は、手指の酷使、慢性的な腱鞘炎、関節リウマチ、更年期障害、ガングリオン、透析患者、手首の骨の変形、原因不明の特発性などです。
最初は手の軽いしびれで気づきますが、自転車のハンドルなどを握る動作ではじめてしびれを自覚することもあります。明け方のしびれで目を覚ますようになったり、病状が進行すると親指の付け根の筋肉(母指球筋)が痩せてきて、物が上手くつまめないようになります。
診断は専門医による診察での理学所見、神経伝導速度検査などで神経障害の程度を評価します。
診察の結果、軽傷例であればサポーターで手を安静にすることや物理療法によるリハビリ、グライディングエクササイズによる運動器リハビリテーションにより改善が得られます。また、しびれが強い場合は手根管内へステロイド注射や正中神経のハイドロリリース注射を施行します。
母指球筋の萎縮を生じているような重症例では保存療法では軽快しないことも多く、手術に至る場合もあります。手術は局所麻酔下に、日帰り手術で行えます。
肘部管症候群は、肘の内側を走る尺骨神経が肘の内側にある肘部管というトンネルで圧迫されることにより麻痺を生じます。
原因としては、肘部管を構成するトンネルの部分が固くなったり、肘の骨のトゲが神経を刺激していたり、小児期の肘の骨折や、スポーツや重労働などによる肘の酷使が挙げられます。
症状としては小指と薬指の痺れや痛み・不快感を生じます。
進行すると手の筋肉が痩せてしまい、握力も低下し、細かい作業が上手くできなくなります。
診断は専門医による診察での理学所見、神経伝導速度検査などで神経障害の程度を評価します。
治療は肘を酷使しない生活指導、ビタミンB12の内服薬、尺骨神経への物理療法によるリハビリを行います。また、しびれが強い場合には肘部管内へステロイド注射や尺骨神経のハイドロリリース注射を施行します。
手術は上肢の神経ブロック麻酔下に行います。手術法は原因によって適切な方法が選択されるため、手術侵襲の程度により日帰りないしは1泊入院で行います。
野球肘は成長期にボールの投げすぎによって起きる肘の投球障害です。投球時の疼痛が、進行すると日常生活動作でも痛みを感じます。
また、肘の曲げ伸ばしに制限を生じ、動かせなくなることもあります。
基本的にボールの投げすぎによるものですが、繰り返しボールを投げることによって肘への負荷が過剰となることが原因です。
また、投球動作やフォームに問題があり、その矯正が必要な場合が多いのも特徴です。
肘の外側で上腕骨の関節軟骨が損傷されるもの、内側で靭帯・骨・軟骨が損傷されるもの、後方で骨・軟骨が損傷されるものと、タイプが分かれます。
痛みを我慢して投球を続けると損傷が進行し、関節の変形や可動域制限を来すため、パフォーマンスが低下します。疼痛がある間は投球を控え、フォームの矯正を行います。
肩や股関節などの柔軟性が足りない場合が多く、リハビリが必要です。
手術治療が早期復帰に有効なケースもありますが、進行すると軟骨移植などの手術が必要となり、治療に時間が掛かります。早期に治療を開始することが大切です。
物を持ち上げる動作やタオルや雑巾を絞る動作で肘の外側に痛みが出現します。
肘の外側には手首をそらす筋肉につながる腱が付着しているため、この腱が痛むと症状が出現します。
原因はスポーツや仕事での手肘の酷使、肩が悪くて肘に負担がかかっている、テニス肘に対する頻回のステロイド注射による副作用、肘の関節のゆるさなどが考えられます。
テニスのバックハンドの際に使う筋肉なのでテニス肘という俗称が付いていますが、ほとんどの場合、テニス愛好者以外の患者様です。
治療は、まずは肘の安静と外用薬、物理療法、特に指導するストレッチをまめにやって頂きます。スポーツや仕事の際にはテニス肘用のサポーターを装着し、肘の負担を軽減します。
これでも症状が改善しない場合はハイドロリリース注射を施行します。これらが有効でない場合、少量のステロイド注射を施行します。また、難治例では、手術治療を考慮します。
三角線維軟骨複合体は手首の小指側に位置しており、この部位が損傷すると手首の小指側に痛みが出ます。特にドアのノブを捻ったり、重いドアを手で押したりすると痛みが出現します。
主な原因は転倒して手をついた際の外傷や手を酷使する仕事、スポーツ、加齢などが考えられます。
三角線維軟骨複合体とは軟骨と靭帯から成る独特な構造を呈しています。特に軟骨の部分は尺骨と手根骨の間のクッションの役割があり、靭帯の部分は橈骨と尺骨の間を安定化するための重要な役割があります。
診断は専門医による診察での理学所見、MRI、手関節造影検査などにより行われます。
治療は病態や病期にあわせてギプス固定やサポーター固定など適切な保存療法を選択します。保存療法で効果が得られない場合は受傷後早期では関節鏡視下に損傷部の処置を行ったり、陳旧例では三角線維軟骨複合体の再建術を行います。
尺骨突き上げ症候群は、TFCC損傷と同様に手をついたり捻ったりする動作で手首の小指側に痛みを生じます。尺骨が長いことによって、尺骨が手根骨側に突きあがり、三角線維軟骨が尺骨と手根骨との間に挟まって慢性的に痛んでくることにより発症します。
原因は生まれつき尺骨の長さが橈骨に比べて長い人、幼少期の手首のケガによる成長障害、橈骨遠位端骨折後に2つの骨(橈骨と尺骨)の長さのバランスが悪くなったことなどが考えられます。
診断は専門医による診察での理学所見、手関節の単純レントゲン写真による尺骨の長さのチェック、MRI、手関節造影検査などによります。
治療はまずサポーターによる保存療法、物理療法によるリハビリテーション、手関節内のステロイド注射などを行います。保存療法で効果が得られない場合は尺骨を短くする骨切り術を行います。
母指CM関節症は、母指付け根にあるCM関節の軟骨が痛んできて、痛みを生じます。病状が進行すると外観上もCM関節が出っ張ってくるCM関節の亜脱臼を生じます。ものを摘まんだりする時や、大きな瓶の蓋をあける時に痛みが出ます。
進行すると母指が開きにくくなります。
原因は加齢によるものがほとんどですが、骨折や外傷後に生じることもあります。
治療はCM関節を保護する適切なサポーターの選択が重要ですので、すでにサポーターをお持ちの方は必ずご持参ください。炎症が強い場合は関節内にステロイド注射を行います。痛みが強く、仕事や日常生活にかなり支障がある場合には手術治療を行います。
指の指先から数えて1番目にある第1関節に生じる変形性関節症で、外観上も結節(しこり)となり、疼痛や可動域制限を生じます。
この疾患の報告者のヘバーデン医師の名にちなんでヘバーデン結節と呼ばれています。1本の指だけが罹患することもありますが、複数の指が罹患することも珍しくありません。
水イボのような膨らみ(ミューカスシスト=粘液嚢腫)ができることもあります。
痛みで病院を受診する患者様の多くが40歳以降の女性ですが、疫学的調査では男女の有病率に差が無いとの報告もあります。加齢、体質、指の酷使は発症の要因となりますが、明確な原因は明らかではありません。また、最近では症状を引き起こす要因として女性ホルモンの関与にも注目されています。
診断はレントゲン検査および採血による関節リウマチとの鑑別によります。また、更年期の女性で問診上、女性ホルモンの異常が疑われるようでしたら血液検査を行うこともあります。
治療は指装具やテーピングが効果的です。さらに、痛みを和らげるリハビリや消炎鎮痛剤、漢方薬などによる内服薬などの治療を行います。これらで症状が軽快しない場合には関節内注射や手術療法を行うこともあります。
指の指先から数えて2番目にある第2関節に生じる変形性関節症です。関節の曲がりが悪くなるため、ものが握りにくくなります。1本の指だけが罹患することもありますが、複数の指が罹患することも珍しくありません。病態と診断および治療法はヘバーデン結節とほぼ同様ですので、ヘバーデン結節の項をご参照下さい。
マレット変形は、指先にボールや物をぶつけて起きることが多く、指先の痛みと損傷がひどいと指がピンと伸ばせなくなります。この指の第1関節(DIP関節)が伸びなくなった状態をマレット変形と言います。
マレット変形には、2つのタイプがあります。
腱性マレット | 原因が腱断裂によるもので、放置するとDIP関節は伸びないままで、さらに指の第2関節(PIP関節)が過伸展してしまう“スワンネック変形“をきたします。 診断には骨折の有無を確認するためにレントゲン検査や超音波検査を行います。 治療は早期に装具や副木による固定を開始することが重要です。 |
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骨性マレット | 原因が骨折によるもので、放置するとDIP関節は伸びないままで、骨がつかずに痛みが残存したり、DIP関節が脱臼してきたり、変形性関節症に移行したりする場合もあります。 診断には骨折の有無を確認するためにレントゲン検査や超音波検査を行います。 治療は装具や副木による固定を行う場合と、手術を行う場合があります。 手術は皮膚を切開せずに、レントゲンも診ながら皮膚の上から細いピンを2本刺入する、負担の少ない方法です。 |